プレスリリース

【大阪市立自然史博物館】シイタケの大敵 “シイタケオオヒロズコガ” の正体に迫る ― 幼虫・蛹の形態を改めて正確に図示 ―

リリース発行企業:地方独立行政法人大阪市博物館機構

情報提供:

 大阪市立自然史博物館の長田庸平学芸員が九州大学昆虫学教室の朴鎮享氏(博士後期課程)と森林総合研究所企画部研究企画科の北島博博士との共同研究で、栽培シイタケの害虫として知られるヒロズコガ科のシイタケオオヒロズコガの幼虫と蛹の形態を示した論文が、「Redescription of immature stages of the shiitake fungus moth, Morophagoides moriutii (Lepidoptera: Tineidae)」という題目で応用昆虫学の専門誌である国際誌「Applied Entomology and Zoology」に掲載されました。

<研究のポイント>
・日本国内にはシイタケオオヒロズコガの仲間が複数種生息します。過去の論文で「シイタケオオヒロズコガ」の幼虫と蛹として図示されていたものは、この仲間の分類体系に変遷や混乱があったため、正確にどの種に該当するのかが不明でした。

・今回、実際のシイタケオオヒロズコガの幼虫と蛹の形態を改めて観察しました。その結果、過去に別種として図示されていたものと特徴が一致することがわかりました。

・今回の論文では、シイタケの主要害虫種であるシイタケオオヒロズコガの形態を改めて詳細に図示しました。これにより、害虫防除の研究の発展に向けて大きな前進となりました。

研究内容

 ヒロズコガ科のシイタケオオヒロズコガの仲間は栽培シイタケを食害する害虫として知られ、日本国内では複数種が分布しています。幼虫は榾木や子実体を食害し、収量を大幅に落とします。前翅長は7-10mm程度の小さな蛾類で、前翅はクリーム色の地色に茶色い斑模様です。
 1976年に当時大阪府立大学農学部の教授だった森内茂博士は、シイタケオオヒロズコガはMorophagoides ussuriensisという学名の種に該当すると考え、成虫と幼虫と蛹の形態を図示しました。当時、シイタケオオヒロズコガ属は国内でこの1種のみが分布するとされていました。その後、森内博士が図示した成虫は、真のM. ussuriensisとは異なる別種であることが判明し、1986年にシイタケオオヒロズコガにはM. moriutiiという新しい学名が与えられました。ところが、この時の論文でM. moriutiiとして示された成虫の図は、森内博士が図示したものとは形態が明らかに異なっていました。2013年、ホロタイプ(種の基準となる標本)の調査により、M. moriutiiの成虫の形態が正しく図示されました。2014年以降、国内のシイタケオオヒロズコガ属にはさらに複数の新種がみつかっており、8種に整理されています。これらは斑紋がよく似ていますが、交尾器の形態やDNAバーコーディングにより識別できるようになっています。
 しかし、森内博士がシイタケオオヒロズコガとして図示した幼虫と蛹については、正確にどの種に該当するのかが不明のままでした。そこで、長田学芸員は九州大学と森林総合研究所と共同でシイタケオオヒロズコガの幼虫と蛹の形態を調べ、森内博士が1976年の論文でM. ussuriensisとして図示したものと形態的特徴が一致していることを確認しました。森内博士がシイタケオオヒロズコガに対して当てた学名は正しくありませんでしたが、この種の形態について成虫・幼虫・蛹ともに正しく記述していたことになります。今回の論文では、シイタケオオヒロズコガM. moriutiiの幼虫と蛹の形態を改めて図示しました。
 作物を加害するのは主に幼虫なので、幼虫期における識別法の確立が害虫防除に重要となります。今回真のシイタケオオヒロズコガM. moriutiiの幼生期形態が詳細に示されたことにより、種の識別法確立に向けての大きな一歩となりました。今後は、Morophagoides属各種の幼生期形態の図示と種間の形態比較が、シイタケ害虫の防除体系確立の重要な課題となります。

論文情報

Title: Redescription of immature stages of the shiitake fungus moth, Morophagoides moriutii (Lepidoptera: Tineidae)
Journal: Applied Entomology and Zoology 60 (2): 141-147, 2025
Authors: Osada Y., Park J. and Kitajima H.
URL: https://doi.org/10.1007/s13355-024-00885-6


図1.シイタケオオヒロズコガ属の分類学的変遷



図2.シイタケオオヒロズコガの標本

図3.榾木に静止するシイタケオオヒロズコガ(大阪府貝塚市)



図4.シイタケオオヒロズコガの幼虫(体長は12.0 mm前後)

図5.幼虫の頭部の形態



図6.幼虫の刺毛配列

図7.シイタケオオヒロズコガの蛹(体長は10.0mm前後)

図8.シイタケオオヒロズコガの蛹形態

お問い合わせ先

○研究論文の内容に関する問い合わせ
長田 庸平
大阪市立自然史博物館 昆虫研究室 学芸員
Email: osada@omnh.jp TEL: 06-6697-6222 FAX: 06-6697-6225

○広報および広報用画像に関する問い合わせ
山上 香代
大阪市立自然史博物館 総務課 広報担当
Email: k-yamagami@ocm.osaka  TEL: 06-6697-6222 FAX: 06-6697-6225

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